◎香りに鼻を向け感度高めて未来を探ろう。大切なものは目に見えない。                 印刷用表示 |テキストサイズ 小 |中 |大 |

教育現場のアロマテラピー
初等教育において「香り」を感じることの大切さについて

Education of the olfactory sense in the elementary education and application of aromatherapy-Expectation of the olfactory sense education which protect life and raises sensitivity

幼児教育における香りとアロマテラピー





成瀬守弘 Peppermint Studio/香りの環境研究所 

命を守り感性を育む「嗅覚教育」への期待


色の名を言えても、香りの名前は言えない



 自らの命を守る最後の砦は、各自の「感覚」であることは、周知の事実です。五感の各センサーが、身の危険や変化をいち早く大脳へ知らすことにより生命を維持しています。近年、幼児や児童の感覚の鈍化、感性の未発達が問題視されています。感覚の未発達は、自らの生命を守る力の低下や、成長に不可欠な好奇心の芽の成長を弛めるばかりか、感情を振幅させる機会を逸しかねません。嗅覚に関しては、体感教育の中でも充分な教育メソッドがなく、香りの名前(ボキャブラリー)を挙げられる幼児や児童は希です。

鼻でモノを見る力を養う



 日本には「目で見て鼻で見よ」という諺がありますが、現代の視覚情報社会では、伝達手段が視覚一辺倒な画一化がなされ、手軽に素早い「視覚情報文化」は定着しましたが、その反面物事を多面的に捉える先人の知恵を見失い、さまざまな社会現象を引き起こしました。こうした社会背景に教育界においても知育偏重教育が、感覚の鈍い子供を増加させる大きな要因となりました。


 加工食品の大半に合成香料が使用されている昨今、天然の香りに触れる機会が益々減少しています。リアルな香りよりもフェイクな香りに取り囲まれ、視覚のみならず嗅覚までもがバーチャルになりつつあります。
 幼児期の香りのとのふれ合いは、教育の現場のみならず、家庭においても実践し、豊かで感覚の良い人格形成を促進することの大切さを感じています。



香りを嗅ぐことの大切さが浸透




嗅覚のメカニズムが解明されるに従い嗅覚教育への意識が高まった



 幼児教育における「感覚教育」は、ルドルフ・シュタイナーやマリア・モンテッソーリらがその大切さ提唱し、現在も現場で実践されていますが、視覚や聴覚、触覚そして味覚等が中心で、嗅覚に関するプログラムは希薄です。教育理論が考えられた当時は、大脳の嗅覚メカニズムがまだ紐解かれておらず、重要な働きや特異な反応等に関して解明されていませんでした。やがて時代と共に大脳の未知の分野へも科学のメスが入り解明され、嗅覚の概要が少しずつ理解され、嗅覚(香り)への関心が高まってきたものと考えられます。

知育教育から体感教育へのシフトに嗅覚教育が要となる



 人は五感のそれぞれのセンサーで状況把握し行動を制御していますが、近代社会においては文字や視覚情報偏重の傾向にあります。文字や映像に頼る文化をスーパーマーケットで食材を選ぶ場合を例に挙げ「知育的購入法」と「体感的購入法」で比較してみると、前者は文字と映像(値札やPOP、ラップされた商品)という限られた情報を判断して買うわけですが、体感教育的食材選びとは、触ってみる事から情報を収集し加えて文字や叩いて音で鮮度を確かめて購入をする方法です。命に直接関与する食材を選ぶには、手間はかかりますが後者がより安心して買うことが出来ますが、未発達な感覚では後者の買い方は難しいものとなります。
 欧米などに倣って日本でも体感教育へのシフトが、すそ野を拡げています。大量の知識を蓄えさせる知識一辺倒の学習を由としてきた時代から、自ら考えて行動する能力が求められる時代に、感覚をしなやかに育む要として嗅覚教育は必修の課題となります。

「感覚の敏感期」の嗅覚教育は豊かな人格形成に必修



 嗅覚が、他の感覚器官と決定的に異なるのは生命に直接関わる判断する器官であるこです。この機能は、一度覚えた情報は大脳に焼き付けられて、生涯香りのデータベースとして消えないといわれています。瞬時に香りをチェックし食品の腐敗や災害の臭気等を感分析して命を守っているわけです。視覚情報などは時間の経過と共に記憶が薄れるのに対し、その働きには目を見張るものがあります。生理的に香りを判断する本能と、経験則で蓄積してゆく心理的な記憶に基づく分析力をそなえている嗅覚ですが、経験則による香りによる判断を豊かなものにするためにも香りへの接触機会は重要といえます。
 モンテッソーリの云う「感覚の敏感期」である3歳前後には、生活の基本臭(40種類程度)や草木の芳香、自然の香りやさまざまな風物の香りや匂いに出会う機会を与えることで、香りのボキャブラリーを豊富にスムーズに蓄積できる時期でもあるのです。
 核家族化した現代において、幼児期に高齢者に触れる機会が少ないことから起因する青年期の高齢者への体臭に嫌悪感を覚えること一つ取り上げても、香りや匂いの体験は幼児期に特にの大切です。

命を守る嗅感覚を活性化させ生きる力を高める



 嗅覚は他の感覚器官に比べても複雑な機能を持っています。24時間機能しているとか、嗅覚疲労(香りの判断が終わると感じなくなる働き)を起こして次なる香りを判断する働き、芳香を嗅ぐことで自律神経系に働きかけて深い安息感や時に興奮を得たり、命を守るために欠かすことの出来ない安全確保のセンサーです。こういった働きも嗅覚を活用することでさらに精度が高まる性質を持っています。繰り返し香りに触れることで香りのボキャブラリーは豊かになります。
 視覚情報過多な現代においては嗅覚を意識して使うことで、五感バランスのとれた感覚が養なわれるのではないでしょうか。

「芳香剤」の洗礼を受ける前に「自然の香り」を先に嗅ぐ



 様々な事象を受容できる人格形成には、発達期における豊かな出会いや触れあい、環境が大切なことは語り尽くされていますが、嗅覚体験も同様のことが言えます。幼児が屋外で遊ぶ機会が少なくなった昨今、自然界の香りに出会う前に家庭内の芳香剤に出会っているのです。後に、公園などで花の香りに触れたときに花に意識が向かず「トイレの香り」と感じるのです。原体験としては人工臭でなく天然の香りが先なのです。花の名や香りの質を大ざっぱにしか知らなければ、関心も薄れ、感度も鈍ります。調香師は何年もかけて数千種もの香りを記憶し、頭の中で香りの構成ができるようトレーニングしていますが、受容能力の高い幼児期の香りとの出会いは生涯「感性の財産」となるでしょう。

教育現場と家庭において自然の香りに触れる機会を増やす





「センスがいい」というほめ言葉は一般的には、視覚的なファッションセンスの良さを指していることが多いですが、センス(Sense)=感覚であり、感覚とは五感による「情報収集分析力」の事を指し、人が外的要因や内的要因から身の安全を確保する能力の質のことでもあるわけです。「センスがいい人」というのは置き換えると「生きる力が強い」事を意味しているともとれます。目がよく見えれば身の危険をいち早く察知することが出来るでしょうし、聴覚が優れていれば音で危険をいち早く知ることが出来るのです。嗅覚が敏感なら、劣化した食品やきな臭さをいち早く察知し対処が出来ます。嗅覚を日常的に使用することで、そういった能力を高められると考えられます。


 一度、劣化した牛乳の匂いを覚えた人は、鼻が正常な状態であれば2度と劣化した牛乳を飲むことはまれでしょう。嗅覚のすごさは、まさにそこなのです。視覚情報は日ごとに記憶が薄れますが、嗅覚情報は、消えないのです。家庭内では食事の香り、花の香り、さまざまな行事における香り、家族やペットの体臭など非ケミカルな香りや匂いに出来るだけ多く出会える機会を幼児に与え、教育現場では季節毎の自然の香り観察、香りをテーマにした遊びや友達の汗の匂いをしっかりと体験できる遊びなど嗅感覚の発達に相応しい幼児教育を実践することを望んでます。

日本は香りが豊富



 日本の国土は北は亜寒帯(冷帯)から南は亜熱帯に至り、気候も四季折々の様相をみせ、植物相も多種多彩に分布した世界でも類い希な風土を備えています。植物相の多さで有名なニュージーランドを遙かに凌ぐ種が日本には存在しています。そのなかで香りを発する植物の数も身近なものでも1000種を越える状況です。山の香り、海の香り、里の香りと風土臭の豊かさでも群を抜いています。
 家庭における、食卓での香りの豊かさも世界有数です。基本調味料の数も諸外国に比べ多く、世界の料理が並んだり、「香道」と呼ばれる倫理的かつ芸道的にで香りで遊ぶ民族はほかにありません。
 香りの豊富さで、群を抜いているというよりも、一種特異な存在であり国です。このように香りを受け入れる要素として、日本人や日本に長く住む人の嗅感覚の敏感さは、希有なものがあります。嗅感覚は湿度に対し非常に敏感で嗅粘膜が乾くと匂いを受容できにくくなりますが、高温多湿な日本ではとてもいい状態で香りを受容できます。香りを発生させる植物等が豊富で、嗅感覚器が敏感に反応できる日本では、香りとの関係がとても豊かに発展したのです。
 香りを体臭のマスキング材として香水が発展した欧米とは異なり、香りを遊びの対象とした日本の特異性が浮き彫りになります。


 近年、環境の変化とともに日常生活域において香りに出会える機会は減少しているのが現状です。それと、すべての芳香樹や芳香植物が同様の香りの放ち方をしているわけでなく、香りが拡がるものや側に寄らないと感じないもの、揉まないと香りが発散しないものなど香りの質によって接し方や嗅ぎ方も異なります。さまざまな植物や風物についてよく観察し特性を調べて特徴を把握することが、嗅覚教育の成果を上げるための必修課題といえます。



嗅覚教育の実際 


「香り」対「嗅覚」の関係について学ぶ



 嗅覚教育は、発生源である「香り」と、香りを感じとる「嗅覚(鼻)」の二者それぞれの働きや特性、相関関係を踏まえた上で「香りと感情」のメカニズムを学び、指導や環境整備にあたることが望まれます。指導者には、下記の要素を修得することを提唱しています。


(「嗅覚教育」ベーシックエデュケーション)


(1)嗅覚の生理学…嗅覚のメカニズムと役割 
 嗅覚神経のメカニズムと自律神経への作用について、五感の中の嗅覚の役割と特性(嗅覚疲労等)について学ぶ


(2)香りの発生メカニズムと働き…メッセージとしての香り・匂い 
 香りの成分、芳香と悪臭、香りの意味(植物の香りと動物の匂いの役割・目的)、コミュニケーション言語としての香りを学ぶ


(3)嗅覚教育メソッド…香りあそび、嗅覚表現法、嗅覚教材制作 
 香りを感じるプログラム、香りが分かるプログラム、香りを想像するプログラム、香りを表現するプログラム、香りを活用するプログラム、香りを楽しむプログラムを学ぶ


(4)嗅覚教育指導法…香りのふれ合い、香りのカレンダー、生活臭の知識
 嗅覚能力測定法、香りの閾値、香りの嗅ぎ方感じ方、香りのカレンダー・マップ制作法、生活基本臭、嗅覚環境整備、香りのお庭、教材開発などを学ぶ

香り探しから始める「嗅覚教育」



 基本は、指導者や教育機関において地域に存在する香り情報の収集から始め「香りのカレンダー」制作、フィールドでの香りのふれ合い、香り体験と表現、香りのクラフト、香りのお話しなどのプログラムなど、さまざまな方向から香りとの触れあいを体験することで、嗅覚を活性化させ、香りや匂いに対して敏感に感応できるように育み、同時に香りや匂いに対する受容度を高めます。


 香りや匂いを探す「香りのお散歩」では、季節の植物を嗅覚を頼りに探し出したり、地域特有の香りの発生源を探偵のように探し出します。植物以外の動物の匂いや土の匂い太陽の匂いを感じる感覚を養います。植物を使ったものでは、お花の精油成分をビニール袋で採取する「天然香水」づくり、生活で出会う食品の香りを形を見せずに当てる「この香り、なんだろう」では親しんでいる香りでも意識を集中させないとなかなか正解が出せないことに驚くことでしょう。

アロマテラピーの活用



 嗅覚教育の実践にあたり、アロマテラピーや精油の知識はとても有意義で、安全にかつ効果的なプログラムの実行に大いに役立ちます。教育従事者は元よりアロマセラピストの新たな職域としての可能性も大いにあるように思えます。


 香りを嗅ぐことは、物理的な行為にとどまらず生理的な作用を引き起こす行為ですから、やみくもに香りに触れっぱなしでは過剰に生理反応を起こさせたり、拒絶感を持ちかねません。視覚や聴覚的刺激と異なり、香りや匂いに対する拒絶感を一度体験すると正常に戻すには大変困難なものがあります。そういった側面からも、アロマテラピーの知識や経験は嗅覚教育従事者の基本スタディとしても有益です。


 アロマテラピーで用いる精油は、最近では容易に上質のものが入手できる状況になり、嗅覚教育を行う上で地域や季節、天候等に左右されずに香りの体験や遊びのバリエーションを拡げることが出来ます。同時に、芳香療法として教育現場の環境づくりとしてルームコロンや、脱ケミカル臭(ワックス、殺虫剤、芳香剤)に不可欠ですが、精油を用いた掃除用精油ブレンド、精油ベースの消臭材、昆虫忌避材や虫さされ時のスキンケアクリーム等、制作過程そのものも嗅覚教育の一環として実践できます。

教育現場と香りの共生〜香りの庭づくり



 知識詰め込み型の知育教育から体感教育へとシフトしてゆく中、教育現場においては、環境教育を皮切りに新しい試行錯誤がされていますが、少し視点を変えて、幼児や児童の感性の琴線に触れる環境づくりとして「やる気の出る学校」「好奇心をくすぐる園」のビジョン作成も併せて考えることが大切です。


 特に嗅覚刺激は、前述のように本能に最も近い感覚器官ですから、嗅覚的に気持ちの良い空間づくりが快適な環境づくりのツボとなるでしょう。嗅覚教育の実践や香り環境の整備の基本はケミカル臭の排斥です。たばこ臭や床ワックスなど成人にはさほど感じない臭気レベルでも、幼児にとっては刺激が強く感じるケースも多いです。そういった臭気を排斥しつつ、季節に見あった精油の空中散布やインフルエンザ予防にシネオール含有の精油の利用、集中力を高めるときの精油の活用、保健室でのメンタルケアなど共有できるレシピの開発やメディテーションの導入。部活としてのアロマテラピーの支援、香りの庭づくりなど、メンタリティーへの比重が高くなる時代においては、香りの活用と嗅覚を満足させる環境整備は、教育現場の改革になくてはならない要素となってゆくことでしょう。





aromatopia No58 2003掲載分

香りの植栽提案

特に幼児教育施設における
植栽と嗅覚教育サポート

四季折々に香る植物や、果実。通年栽培できるハーブ類など幼児期の成長時に出会うべき植栽の提案を行っています。

触れると危険な植物など踏まえて、嗅覚教育の環境整備としての植栽提案を行っています。

また、小規模なハーブガーデンの計画、ハーブ類を使った視覚・嗅覚・味覚(食育)教育プログラム支援なども行っています。

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